年間1800杯近くを食べ歩くかき氷の女王・原田麻子さんと、前後編に分けてかき氷の魅力をひもときます。後編は純氷&天然氷の違いなどの知識をはじめ、かき氷ブームの行く末を、作り手と食べ手の視点から伺いました。
天然氷によるかき氷は、あくなきこだわりの賜物
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かき氷の女王こと、原田麻子さん。食べているのはふわっと紅茶が香る「アッサム&ディンブラ」800円。甘みのあるシロップは、心地よい渋みがあとを引きます。別添えの特製練乳をかけるとミルクティーに。
──氷には大きく分けて、「純氷」と自然な環境で作られる「天然氷」があります。その違いを教えてください。
正直、食べても違いは分からないと思います。天然氷をそのまま食べると、まろやかな気がするな〜という程度には感じられるかもしれませんが、シロップがかかっているとほぼ分かりません。
──具体的に、それぞれどのように作られているのでしょうか。
ろ過した水を工場で凍らせる純氷に対し、天然氷は自然の寒さによって冷え固められたもの。天然氷に関しては、ゆっくりと固まるのでじんわりと口溶ける。雑味がなく味も均一です。
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「シロップがかかった“かき氷”として出されると、食べる側としては純氷と天然氷って味の違いはほとんど分からないんです」(原田さん)
それでも、天然氷にこだわる理由とは?
──2015年ごろは、おいしさを判断する基準として「天然氷」がひとつのキーワードになっていたように思います。
そのころ爆発的に流行りましたが、いまは使っているお店がぐっと減りました。天然氷って、純氷の3〜4倍の値段なんですよ。なので簡単に使い続けられるものではなく、結局コスト面において厳しくなる。それでもなお天然氷を使っているのは、溶けにくさだったり、氷のかたさだったり、味わいに明らかな違いを感じていて「自分たちが出しているシロップにふさわしい、こだわりの氷を合わせたい」という想いが強いのかなと。
──質はもちろんですが、それ以上に作り手のこだわりが大きいと。
はい。お店の心意気みたいなものですね。だから天然氷のお店がおいしいというのは、天然氷の特性をよく知っていて、自家製シロップと合わせることによって、自店のかき氷がより引き立つと、知っているということ。 “天然氷”というワードが先行してしまいましたが、そのバックボーンにはそんな店主の想いがあります。かき氷ブームを受け、5軒だった天然氷の蔵元も7軒になりましたが、数にも限りがあるし、昔からの信頼関係を大切にしつつ、卸先を決めてそれ以上増やさないという蔵元もあります。
かき氷は、無限大の可能性を秘めたスイーツ
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この日「今日の7杯目」と選んだ「あんずみるく」900円。きゅっと酸っぱいあんずとまろやかなミルクが絶妙。とろんとしたシロップの後に、じんわりと氷が口溶けます。後味はヨーグルトのようなさっぱり感
──こだわりのかき氷店が増えて、いわゆるお祭りの屋台で出されているようなものから、だいぶ進化しましたね。
ふわふわな氷やデコラティブな品が登場してから、実はまだ5、6年しか経っていません。その急激な変化は、前編でお話ししたSNSの登場はもちろん、たくさんのスイーツがあふれる中で、「かき氷」の可能性にみんなが気づいたのではないかと思います。真っ白で無味無臭な氷がベースなら、いろんなことができるぞと。フルーツや野菜を合わせたり、炙ってみたりと、かき氷って無限に楽しめる。私も作り手としてわくわくした気持ちが止まらないですもん。自分のお店も、かなりのメニュー数になりました。
──食感の幅も広がりましたよね。
はい。ジャリジャリ、サクサク、ふわふわと、さまざまに表現できる。そんなところも、職人さんたちを熱くさせる理由なのではないでしょうか。幅広いメニュー展開ができる分、たくさんの人の心をも掴んだんじゃないかな。冷たいものが嫌いじゃなければ、必ず好きな味が見つかるというか。
──流行には地域差もあるのでしょうか?
関西は2年ほど遅れてブームが上陸したので、いままさに盛り上がっている最中。見た目が派手なものが多い傾向にありますね。京都はお抹茶の文化があるから、老舗の甘味屋さんが出している和のかき氷が多い。そういう意味では、東京は多彩なお店が集まって、切磋琢磨しているなという印象です。
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「ブームの発信地だけあって、やっぱり東京のかき氷はクオリティが高い」(原田さん)
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おじゃました紅茶専門店「ティー ハウス マユール 宮崎台店」は、東京・二子玉川から電車で約10分、屈指の人気店だ
──地域によって流行りの傾向は違いますが、「かき氷」自体は、これからどんな立ち位置になっていくと思いますか?
ライフスタイルの一部になりそう。最近は、「家でもできるおいしいレシピを教えて」という依頼が増えて。ひと昔前なら既製品のシロップで満足していたけれど、家で食べるかき氷にも、こだわりたいという人が増えてきたんだと思います。
──調べると、家庭用のかき氷機もたくさん出ているんですね。
本格的なものが続々出ていますね! 私も3社の機械を使いましたが、いわゆる手でハンドルを回す“ザ・かき氷機”ではなく、1年中キッチンに置いていても違和感のないデザインだったり、ライフスタイルに溶け込むことを意識している気がします。
──お店で出されているかき氷に関しては、ブームの流れはどこに行き着きますかね。
最近は2015年から続いたフォトジェニックなブームに疲弊して、シンプルなものの良さが再認識されています。旬の果物や素材をおいしく食べるという流れになっているかな。
かき氷は、見てきゅんとしたり季節を感じたりと、さまざまな体験をもたらしてくれるスイーツです。個人的には「柑橘類だけでもこんなに種類あるんだ!」なんて、いろんな果物を知るきっかけになりましたしね。みなさんにも一年を通して、いろいろな味を体験してほしいな。
氷の作られ方から削り方、ブームの背景まで……かき氷って、知れば知るほど奥深い。洋風のフレーバーも増えましたが、季節感あるシンプルな一杯は、やはり誰もが惹かれるのではないでしょうか。それはここが、四季折々の風景がある日本だからかもしれません。おすすめいただいたほかにも、全国にはおいしいかき氷がたくさんあります。ぜひ自分好みの一杯を見つけてくださいね。
原田さんと行ったお店
ティー ハウス マユール 宮崎台店
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東急田園都市線・宮崎台駅から徒歩約3分。赤い看板が目印です
インドの一流茶園から仕入れる紅茶専門店。夏場は行列が絶えず、かき氷好きからも評価が高いお店のひとつ。紅茶を使ったフレーバーをはじめ、手作りのフルーツシロップなど約15種がそろう。原田さんいわく、「群を抜いておいしい紅茶のかき氷。かき氷は冷たいので香りをあまり感じないんですが、ここはふわっといい香りが」。それくらいたくさんの茶葉を使えるのは、専門店の強みだ。
住所:神奈川県川崎市宮前区宮崎2-3-12-103
電話:044-854-2430
営業時間:11:00〜17:00(L.O.16:30)、土日祝〜16:30(L.O.16:00)
休み:不定休
Written by Wako Kanashiro
Photos by Mari Harada
Special thanks to Tea House Mayoor
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原田麻子
1983年、神奈川県生まれ。大学時代に京都で出合ったかき氷に感動して以来、かき氷の虜に。年間1800杯近くを食べ歩き、かき氷の女王とも称される。2016年には、自らかき氷専門店「氷舎mamatoko」をオープン。