前編/ほかのスイーツにはない魅力が宿るかき氷とは── かき氷の女王・原田麻子さんに聞いた

2018.08.01

FOOD

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前編/ほかのスイーツにはない魅力が宿るかき氷とは──
かき氷の女王・原田麻子さんに聞いた

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世は空前のかき氷ブーム。人気の専門店にいたっては、季節を問わず、行列が後を絶ちません。無味無臭の氷にシロップをあわせたシンプルなスイーツが、そこまで人々を引き付けるワケとは? 年間1800杯近くを食べるかき氷の女王・原田麻子さんと、2回に分けてその理由をひも解きます。

女王が思う、かき氷の魅力とブームの背景

──世は空前のかき氷ブームですね。原田さんが思う、その魅力はどんなところでしょう?

同じ冷たいスイーツでも、アイスクリームのように重たくないところ。大きくてもぺろっと食べられるから、満足感もあります。そして人は、気温が25度を超えると「アイスクリームよりかき氷!」って気分になるみたい。本能的に体温を下げようとするんですね。

──最近はSNSで、デコラティブなものも多く見られます。

写真映えという面でも満足度が高まっていますよね。最近はSNSを見て、行くお店を決める人も多いんじゃないかな。私がかき氷に出合った12〜13年前はそんなツールがなかったし、ブログしか情報を得る手段がなくて。冬に食べられる専門店も数えるほどしかありませんでしたから、うらやましいかぎりです。

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「近ごろはSNSで手軽に情報が得られる分、広まるのも早くなった」と原田さん

──ブームは2012年ごろから、じわじわと火が付いた印象ですが。

きっかけは2011年。東日本大震災が起きて、節電をはじめとした「昔ながらの涼の取り方」が見直されたようです。2012年に環境省が発表した「クールシェア」という取り組みもキーワード。要は電力節約のために涼しいところへ行って体温を下げようという動きなんですが、かき氷もその一つとして注目されたんですね。そのころからネットの検索数も3倍ほどに増えて「便利な時代になったけど、先人の知恵に学ぼう」と“シンプルな生き方”の魅力が再認識されたのかもしれませんね。

──いまや季節を問わず愛されるスイーツになりました。

かき氷店が増えて、その季節ならではの味が食べられるようになったのも大きい。夏は旬を迎える果物が多い分、フレッシュな果物シロップが豊富。秋冬は体が冷えにくい乳製品を使ったデザート系が多くなります。氷も溶けにくいからより薄く削れて、ふわふわの氷と “もったり系”のソースの組み合わせが楽しめる。素材も芋栗南京をはじめ、夏にはない重たいものが出始めます。もちろんシャリシャリに削った氷もおいしいんですが、ふわふわな氷がもったりしたソースに耐えられるのは冬ならではですから。

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「寒い時期は、作り手が定番以外のユニークなメニューを実験的に出すことも多くて。それも楽しみのひとつです(笑)」(原田さん)

おいしさの要は、シロップ×氷のバランス

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その一杯には、店主のセンスが光ります

──ふわふわやシャリシャリと、シロップ×氷の削り方が、おいしいかき氷の要でもあるのでしょうか?

本当においしいお店は、自店のシロップにあわせた削り方をしています。シロップに関しても、氷のことを考えて作られていますしね。例えばパティスリーが作るドルチェ系のかき氷なら、洋菓子に使っているクリームをそのまま使うのがいいわけではありません。脂分を含む生クリームと氷は、本来相性がよくない素材。それをきちんと氷にあわせて作り変えられるかどうか、そんなところが人気店になるかの分かれ目な気がします。

──氷の削りは、作り手の腕によるところが大きい?

削り分けって大変なんですよ! 氷にも“目”があって、逆目や目に沿うように、また中心部を削るときとで氷の出方が違う。見た目では分からないから、その日の気温や刃を当てた時の氷の状態によって調整します。かき氷機の刃に対して、抵抗するとじゃりじゃり、目に沿って削るとなめらかに出てくるなど、当て方でも食感が変わります。作り手のセンスや好みが出ますね。

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「刃への当て方や削る位置によって、氷の食感に変化が出ます」(原田さん)

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いかに氷とシロップのバランスにこだわるかが、おいしさの決め手なのだそう

──そんなかき氷の真髄を感じられる、おすすめのお店を教えてください。

ぱっと思い浮かぶのは、かき氷の聖地と言われている埼玉の「慈(じ)げん」さん。私はここで氷の削り方を定期的に見せていただいているのですが、意図して氷を削り分けたり、かき氷では使わないような平皿やパフェグラスを使ったりもしているんです。

今日お邪魔している「ティーハウスマユール 宮崎台店」さんも大好きなお店。氷の食感とシロップを楽しむという提案をされていて、かき氷本来の魅力を感じられます。上に重いクリームを乗せたいときは氷を固めざるを得ないので、クリームやあずきなどのトッピングはあえて別添えにされています。 地方なら、仙台の「梵(ぼん)くら」。無農薬素材にこだわっていて、きなこも石臼挽きの自家製という徹底ぶり。かき氷機の刃まで、店主自ら研いでいるんですよ!

──器まで使い分けることもあるのですね! 食べているとどうしてもこぼしてしまいがちなんですが、上手な食べ方ってあるのでしょうか。

外から内側に向け、斜めにスプーンを入れるようにするときれいに食べられます。でも一番大事なのは、出てきたら時間を置かずに味わうこと。人それぞれのスピードがあると思うんですが、おしゃべりに気をとられて溶けてしまったりするのはもったいない。一番おいしい時を逃さずに、楽しんでほしいですね。

一見シンプルな一杯の中には、見えないこだわりがぎゅっと詰まっているんですね。そんなところが、人々を引き付ける理由なのかもしれません。原田さんが作り手と食べ手、両方の視点からひも解くかき氷の魅力。続く後半では、主役の氷により焦点を当て、これからのかき氷の立ち位置についても伺います。

Written by Wako Kanashiro
Photos by Mari Harada
Special thanks to Tea House Mayoor

profile

原田麻子

1983年、神奈川県生まれ。大学時代に京都で出合ったかき氷に感動して以来、かき氷の虜に。年間1800杯近くを食べ歩き、かき氷の女王とも称される。2016年には、自らかき氷専門店「氷舎mamatoko」をオープン。

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