これからの季節、キャンプやフェスなどアウトドアで過ごす機会も増えるはず。そんなときに知っておくと役立つのが、雷雨や竜巻、ひょうなどの荒天をもたらす積乱雲のこと。積乱雲は防災や減災に取り組む雲研究者・荒木健太郎さんの主要な研究テーマのひとつでもあります。
積乱雲が近づいてきていることを教えてくれる雲を知る
──突然の大雨をもたらす雲の特徴を教えてください。
荒木:夏によく見かける、高い空まで発達した背の高いモクモクとした雲が積乱雲で、雷を伴い、大雨や竜巻などの原因にもなるので要注意です。
雲が発達できる限界の高さ(対流圏界面)まで達しているため、雲の上の部分が横に広がっている(かなとこ雲)のも特徴です。
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雲の上の部分が横に広がっているかなとこ雲と、積乱雲になる前に、出現することがある頭巾雲
──見るからに何か起きそうな怖い雲ですね……。
荒木:たしかに積乱雲は荒天をもたらすので注意が必要ですが、レーダーを使って積乱雲の動きをチェックしておけば、どこで発達し、どのような方向に進むのかがだいたいわかるので、必要以上に怖がらなくても大丈夫です。
ただ屋外活動をしながらレーダーをずっと見ているわけにもいかないので、空や雲の変化を見て天気を予想する「観天望気」(かんてんぼうき)も役立ちます。
──雲のことをあまり知らない人でも、突然の雨を予想することができるのですか。
荒木:積乱雲に伴って発生する雲がいくつかあります。それぞれが特徴的なので簡単に覚えられると思いますよ。
例えば、帽子のような「頭巾雲」(前の写真)もそのひとつ。積乱雲になる前の雄大積雲が発達しているときに見られる雲で、強い上昇流を伴うために湿った空気の層全体が持ち上げられて発生します。この雲がいるということは、大気の状態が不安定で積乱雲が発達しうる状況であることが読み取れます。
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かなとこ雲がどんどん広がると「濃密巻雲」に。青空が広がっているものの、一方向から高い空に濃い雲が広がってきたら、その雲がやってきた方向に限界まで達した積乱雲があるかもしれません。レーダーを活用して雲の位置を確認するとよいでしょう。
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積乱雲が進んでいる方向の前方に現れるのが「乳房雲」。かなとこ雲が厚くなって、その雲底にどす黒い色のこぶ状の雲がいくつも現れているのが特徴です。この雲が真上の空にいるということは積乱雲が接近している可能性が高く、雷雨や竜巻、ひょうなどに注意が必要です。
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横に長くたなびいている「棚雲」は積乱雲の下に発生するので、すぐ近くに積乱雲があることを知らせてくれています。
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とても危険なのが、弧状に広がる「アーククラウド」。この雲が通過する瞬間に突風が吹くため、見かけたらすぐに頑丈な建物に避難をしたほうがよいでしょう。
──積乱雲にも段階があるのですね。
雨が上がれば美しい虹に出合える。積乱雲の気持ちも想像してみよう
──雲を知って、空を観察するようにすれば、外出の際のスタンスも変わりますね。
荒木:雲は危険を呼びかけてくれるだけではありません。うまく付き合えば天気が荒れる前に安全な場所に避難することもできます。
積乱雲は怖いものと思いがちですが、知識があれば適度な距離感で積乱雲と付き合えます。
そして雨が上がれば、美しい虹に出合うこともできますから。
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雲についてにこやかに語る荒木さん。取材後外に出るとハロを見つけて写真を撮る場面も
──荒木さんはなぜこんなにも雲を愛しているのでしょう。
荒木:雲の気持ちを考えたら、とても好きになりましたね。特に積乱雲には感情移入しやすいと思います。
──積乱雲はどんな気持ちなのですか。
荒木:積乱雲の一生を知ると、気持ちが分かるかもしれません。
積乱雲は、温かい空気が冷たい空気などに持ち上げられて、上昇流が起こることから生まれます。ある高さまで持ち上げられると他の力を借りずに自分で上昇できるようになり、自信たっぷりに上昇し続けていきます。しかし成熟期になり対流圏界面という超えられない壁にぶち当たると、一気に負の感情が流れ出し下降流に支配されてしまいます。降水が強まり雲は衰弱していきますが、地上で新たな上昇流を生み、積乱雲の新しい一生がまた始まることがあります。
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© Kentaro Araki
じつは、積乱雲の気持ちを想像しながら書いた、気象絵本『せきらんうんのいっしょう』(ジャムハウス)が発売されます。積乱雲の物語を思い浮かべて、積乱雲と上手な距離感で付き合いながら、夏空を楽しんでいただけると嬉しいです。
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──なんと! 誕生間もない絵本を紹介いただけるとは。
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『せきらんうんのいっしょう』
- ジャムハウス 7月20日 発売
- イラストは漫画『ブルーサーマル』を描く小沢かなさん。
夏の風物詩の積乱雲の一生を儚くも美しく紹介した一冊。 - Amazon
雲のことを知り、コミュニケーションを深めれば、天気の変化も予想することができるようになる──。
普段の生活の中で、海や山などの旅先で、雲は自然の美しさを教えてくれるだけではなく、とても頼もしい存在なのです。
Written by Rino Oguchi
Photos by Kenji Nakata
Cloud Photos by Kentaro Araki
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荒木健太郎
雲研究者。気象庁気象研究所予報研究部第三研究室研究官。1984年生まれ。
茨城県出身。慶應義塾大学経済学部を経て気象庁気象大学校卒業。地方気象台で予報・観測業務に従事した後、現職に至る。専門は雲科学・メソ気象学。防災・減災に貢献することを目指して、豪雨・豪雪・竜巻などの激しい大気現象をもたらす雲の仕組み、雲の物理学の研究に取り組んでいる。著書に『世界でいちばん素敵な雲の教室』(三才ブックス)、『雲を愛する技術』(光文社新書)、『雲の中では何が起こっているのか』(ベレ出版)など