一人の人がさまざまなキャラクター、才能を発揮する、多面性のある生き方とは? ロックバンド黒猫チェルシーのボーカリストにして、役者としても活躍する渡辺大知と、彼が舞台初主演を務めた『男子!レッツラゴン』の作・演出を手掛けた細川徹による対談。
前編では、渡辺大知が多面的に活躍する理由を語ってもらった。後編では、細川監督が『男子!レッツラゴン』の主演に渡辺大知を迎えた理由とともに、全ての人が持つ「多面性」の真髄に迫る。
「芸達者な人たちのなかで、なにか違うものを生み出してくれるのが大知くんだった」
──渡辺さんは、映画や音楽を体験するなかで「いいな」と感じたことを、ご自分でも表現したいという思いが、活動の原動力になっているんですよね。その「いいな」と思う作品に、共通点はありますか?
渡辺:たとえば映画でいえば、単に明るいだけの作品や、暗いだけの作品は「嘘っぽいな」って思ってしまうんです。「明るさの裏側にある暗さ」とか、その逆もですが、そういうものが感じられる作品が好きですね。矛盾があってもいいというか、そこに人間らしさを感じるんです。
なので、正解が決められている作品はちょっと苦手で。たとえ「正解」を求めたとしても、そこまでたどり着けないのが人間っぽいなって思うんです。「本当はこうなりたい」「でもそうなれない」みたいな葛藤……楽曲でも、激しさのなかに優しさを感じるような、そういうものにグッとくるんですよね。
細川:バンドメンバーと曲をつくっていくなかで、そういう話はするの?
渡辺:ギターの澤(竜次)とは、よくしています。「この映画のこの感じ」とか「この曲のこの感じ」みたいなことを話すと、すごく理解してもらえるんです。ただ、ベースの宮田(岳)は映画とかまったく観ないし、勧めても「5分くらいで寝てもうた」って言われます(笑)。
細川:(笑)。でもきっと、そういうメンバーとやっているから面白いんだろうね。ぼくも脚本を書いているときに、演じてもらう人をイメージして「あて書き」にすることもあるんだけど、実際に演じてもらうと変わってくることはある。「ああ、そうやって動くんなら、ここのセリフはこうしよう」みたいな。自分の頭のなかで想定した通り、100パーセント動くとはまったく思わないし、むしろ、意外なことが起こるほうが楽しい。変わっていく余白があるような作品っていうか、つくっていく過程が楽しいってのはあるかも。
──舞台『男子!レッツラゴン』で渡辺さんを主役に起用したのも、そういった「想定外のこと」が起こるのを期待していたところもありますか?
細川:そうですね。ミュージシャンのお芝居って、普通の役者とはちょっと違う魅力があると思っていて。ショーケン(萩原健一)さん、ジュリー(沢田研二)さん、ムッシュかまやつさんとか。力の抜け方とか独特な入り込み方とか雰囲気が昔から好きだったんです。
それと、『男子!レッツラゴン』のキャストは、お笑い芸人のバッファロー吾郎Aくんだったり、スチャダラパーのANIくんだったり、すごく個性の強い人しかいなかった。普通の舞台だったら、1人いればいいような「飛び道具」だけのキャスティングでできている舞台だったんです。
渡辺:「アベンジャーズ感」がすごかったですよね(笑)。
細川:そのなかでうまく立ち回れる人を考えたとき、普通の役者にお願いしても収まりすぎるというか。芸達者な人たちのなかで、なにか違うものを生み出してくれるのが大知くんかなと思ったんです。
実際、芝居のトーンが公演ごとに変わるんですよ。そこが面白くて。調子の良い日とそうじゃない日で、プロの役者ではありえないようなムラがある(笑)。でもそこが魅力なんです。ミュージシャンとして普段からステージに立っている人ならではの、生の質感があったというか。よく初めての舞台出演で、こんな大変な仕事を引き受けてくれたよね(笑)。もっとほかにもいい舞台いっぱいあったでしょ?
渡辺:いやもう、ぼくは『男子!レッツラゴン』には感謝しかなくて……。ただ、やっているときは迷惑をかけているんじゃないかと思っていたし、悔しい思いをしたこともたくさんありました。共演させてもらった荒川(良々)さんにも、公演2日目くらいに叱られたんですよ。「もっと気を使わずに伸び伸びやりなよ。分かんないことがあったら聞けばいいじゃん」って。その言葉に本当に救われて。「下手でもいいんだ」って思えて。そこからはなにかが吹っ切れたように、心から楽しめるようになりましたね。初日、2日目に来てくださったお客さんには申し訳ないんですけど(笑)。
「大切なのは、どんな表現方法であっても、渡辺大知らしいと思ってもらうこと」
──映画や舞台などさまざまな現場を経験することで、それが音楽活動にも影響を与えることもありますか?
渡辺:確実にあると思います。まず、自分の強みや価値を見つめ直すことができるので、ステージに立つとき、以前よりも堂々と振る舞えるようになった。歌詞の面では、もっと具体的に変わりましたね。バンドをやりはじめたばかりの頃は、とにかく自分の世界のなかに入り込んで歌詞を書いていたので、考え方が狭くなりがちだった。
でも、舞台では、共演する方とのバランスとか、引いた視点で物事を見なければならないときも多くて、それがいい影響を与えていると思いますね。もちろん自分の中身をさらけ出すような言葉を書いてはいるのですが、そこに全体を見る視点も入れられるようになったというか。
──可能性を限定することなく、さまざまなチャレンジをしてきたことが、渡辺さんの強みになっているのを感じました。
渡辺:でも多面性って、特別なことではなくて、みんな少なからず持っているものだと思うんですよ。ミュージシャンと役者を両方やってるとかそういうことだけじゃなくて。たとえば、あるコミュニティで「いじられキャラ」って言われている人が、家に帰ったら家族をいじり倒す役回りなこともあるわけじゃないですか。ぼくも、自分のことを「ほんまアホやな」って思うところもあれば、「クソ真面目だな」って思うところもあるし。
細川:たしかに。普段は意識してないもんね。自分のなかの多面性っていうものを。
渡辺:大切なのは、その見せ方だと思うんです。多面的であることを意識せずに、ぐちゃぐちゃっとしたまま自分を自然に出して、それでもいつもその人らしくなっている。それが理想なんじゃないですかね。ぼく自身、どんな表現方法であっても、渡辺大知らしいと思ってもらうことが重要だと思っています。
Written by Takanori Kuroda
Edited by Kenta Kimura, Reino Aoyagi (CINRA. inc)
Photos by Keishi Ayasama
MUNSELL Q&A
渡辺大知さんにお答えいただきました!
- Q. 好きな色、苦手な色は?
- A. 好きな色:茶 苦手な色:うるさい色
土や木の色である茶色は落ち着くので好き。ビビッドカラーなどのうるさい色は苦手。 - Q. もっとも素の自分でいられるのはどんなとき?
- A. 部屋でゴロゴロしているとき
一番かっこつけてない時間だと思う。 - Q. 自分でも驚いた、自分の意外な一面とは?
- A. 健康なこと
お酒が大好きでたくさん飲んでいるのに、この前の健康診断でオールAだったので驚いた。 - Q. いま一番行ってみたいところは?
- A. 大分県
銀杏BOYZの峯田和伸さんに初めて会ったときに、大分が好きと話していたから。 - Q. 生まれ変わったらなにになりたい?
- A. 女性
女性の世界から見る男性を見てみたいから。
渡辺大知
http://www.kuronekochelsea.jp/
1990年生まれ、兵庫県神戸市出身。ロックバンド、黒猫チェルシ―のボーカリストとして、2010年にメジャーデビュー。2009年には映画『色即ぜねれいしょん』で主演を果たし、第33回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。ミュージシャン、俳優、映画監督、脚本家と幅広いフィールドで活躍している。
細川徹
http://otonakeikaku.jp/profile/profile_hosokawa.html
1971年生まれ、埼玉県出身。脚本家・演出家。大人計画所属。コントユニット「男子はだまってなさいよ!」の主宰として作・演出を手掛けるほか、テレビアニメ『しろくまカフェ』のシリーズ構成・脚本、映画『オケ老人!』の脚本・監督などを担当。