一人の人がさまざまなキャラクター、才能を発揮する、多面性のある生き方とはどんなものか。ロックバンド、黒猫チェルシーのボーカリストであり、2009年に映画『色即ぜねれいしょん』の主演に抜擢、さらに映画の監督や脚本にも挑戦してきた渡辺大知。自らの可能性を限定することなく、さまざまな現場で才能を発揮する彼は、多面的な生き方を体現している存在といえるだろう。
今回は、渡辺大知の舞台初主演作である『男子!レッツラゴン』(2015年)の作・演出を手掛けた劇作家・細川徹との対談を実施。多面性のある生き方について、そして多面的な活動をするうえで心掛けていることについて、語り合ってもらった。
「マルチに活躍したいとか、多面性のある活動をしたいって思っているわけではない」
──「SNSの自分」「友達といる自分」など、一人のなかにさまざまな顔を持つことや、多面的な生き方に関心が集まっています。渡辺さんは周りにいる人の生き方から、そういったことを感じることはありますか?
渡辺:生き方というほど大げさなものではないかもしれないですけど、表現の「場」や、表現するための「ツール」が増えたことで、「自分はこう思っている」っていうことを自由に発信できる環境になっているのかなって思いますね。
渡辺:たとえば、ミュージシャンのなかでも、音楽の楽しさを伝えるために、いろいろな表現方法を取る人も出てきているように思います。映像と音楽をうまく組み合わせた表現をされている岡崎体育さんとかは、もはやミュージシャンという説明が正しいのかどうかもわからないくらい(笑)。
友達のレイジ(OKAMOTO'S ドラマー)とかも、バンドマンだけど服をつくっていて。でも、それがすごくバンドっぽいというか。「ファッションデザイナー」という肩書きでは収まりきらない服をつくっているんです。
細川:大知君もミュージシャンだったり役者だったりいろんな肩書きを持っているけど、多面性っていうことは意識して活動しているの? 「いろんなことをやっているマルチな人」というのを意識したりして、いろいろやっているのかな?
渡辺:それは全然ないんですよ。自分が好きになった作品の「うわ、この感じいいなあ」っていうのを、自分でも出したいっていうことだけを考えていて。自分のなかにある、このウズウズした思いは一体なんだろうって。それを解明したいというか。その手段がいまは役者だったり、ミュージシャンだったりしているだけで、「マルチに活躍したい」とか、「多面性のある活動をしたい」とか、そういうことを意識しているわけではないんです。
──音楽や役者という表現方法に、強いこだわりがあるわけではない?
渡辺:自分から音楽を取り除いても、自分でなくなるわけじゃないですからね。「音楽という手段を使わないとしたら、いまの自分になにができるのか」ということも、常に考えています。本当はプロフィールから職業という欄を消せたら一番いいなと思っていて。役者とか音楽家とかに限らず、どの分野でも「空気」をつくれる人になりたいんです。
──渡辺さんは小さい頃、脚本家を目指していたんですよね。最初からミュージシャンを目指していたわけではないことも、そういった考え方に影響を与えているのでしょうか?
渡辺:そうかもしれませんね。そもそも、「自分が考えていることをどうすれば表現できるだろう?」というのが出発点でしたから。小説も書きたかったし、写真やデッサンを習ったこともある。黒猫チェルシーの場合、ぼく以外の3人は職人肌というか。生粋の音楽人なんですよね。自分はそんな3人に支えられて、そのなかで楽しんでいる存在というか。音楽家というよりは、バンドという表現手段を使って、自分の好きな「空気」を伝えられたらなと思っているんです。役者もそれと同じだと思います。
細川:映画監督もやってるでしょう?
渡辺:はい。『モーターズ』という映画を撮らせてもらいました。ただ、それも職業として「映画監督を目指している」というわけじゃないんですよね。もともと、映画観るか、音楽聴くかくらいしか趣味はないので(笑)、それを突き詰めてみたかった、というところもあります。
細川:すごいストイックだよね(笑)。趣味なのに、そこまで追い込む必要ないでしょう。
「バンドだけに打ち込んでみた時期もあるんですけど、どうしてもウズウズしてしまって」
──細川さんは、渡辺さんを主演に迎えた『男子!レッツラゴン』をはじめとした舞台の作・演出のほかにも、映画の監督、ドラマの脚本など幅広く手掛けています。ご自身の活動において、「多面性」を意識することはありますか?
細川:いや、ぼくも特別に意識していることはないですね。映画の脚本や監督と、舞台のそれとはさほど変わらないし、もちろん、細かいところは違いますけど、多面性と言うほどのことでもないですからね。
ただ、映画も舞台もいろいろな人が関わるじゃないですか。そうすると、たとえば演技とか撮影の仕方を見て、「自分だったらこうするな」とか、思ってなかった自分の別の面がひきだされたりはあります。その点、たとえば小説なら全て自分の責任で世界をつくれるから、書いてみたら楽しいかもしれないと思うことはありますね。でもそれは、もう少し年をとってからの楽しみに取っておきたいかな(笑)。
渡辺:役者として作品に出たい、という思いはなかったんですか?
細川:自分から出たいとは、まったく思わなかった。でも、ぼくの場合は自主映画出身だから、知り合いの監督によく頼まれるんです。少ない予算で切り盛りするなかで、「あれ、この役をやってくれる人いないな、どうしよう……お前できる?」みたいな(笑)。
とにかくなにか面白いことを考えたり、実際にそれをつくったりする仕事がしたくて。それは小学生くらいの頃からずっと思ってた。そこは大知くんと似ているかもしれないね。逆に、「音楽だけでやっていこう」とか「役者に専念しよう」と思ったことはないの?
渡辺:一時期、役者の仕事をお断りしていた時期があったんです。3年くらい、バンドだけに打ち込んでみたんですけど、どうしてもウズウズしてしまって。その気持ちは大切にしたいなと思ったし、そのウズウズがなんなのか、を自分で確かめてみたかった。そこから、やりたいことはとことんまで突き詰めようと思いました。自分で可能性を狭めてしまうのはもったいないですからね。
自分の可能性を限定することなく、幅広いジャンルで活躍する渡辺さん。そんな渡辺さんを、細川監督が『男子!レッツラゴン』に起用した理由とは? 後編でも引き続き、多面性のある生き方について掘り下げていきます。
Written by Takanori Kuroda
Edited by Kenta Kimura, Reino Aoyagi (CINRA. inc)
Photos by Keishi Ayasama
渡辺大知
http://www.kuronekochelsea.jp/
1990年生まれ、兵庫県神戸市出身。ロックバンド、黒猫チェルシ―のボーカリストとして、2010年にメジャーデビュー。2009年には映画『色即ぜねれいしょん』で主演を果たし、第33回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。ミュージシャン、俳優、映画監督、脚本家と幅広いフィールドで活躍している。
細川徹
http://otonakeikaku.jp/profile/profile_hosokawa.html
1971年生まれ、埼玉県出身。脚本家・演出家。大人計画所属。コントユニット「男子はだまってなさいよ!」の主宰として作・演出を手掛けるほか、テレビアニメ『しろくまカフェ』のシリーズ構成・脚本、映画『オケ老人!』の脚本・監督などを担当。