動物たちの中には、生きるために“バブル”=泡を利用する生物がいるという。その泡の使い方は実にさまざま。生死にかかわるようなシーンもあれば、狩りのシーンもある。生物ライターの平坂さんに「バブル生物」について伺いました。MUNSELLオリジナルな、バブル生物図鑑を楽しんでください。
植物は光合成をして酸素を吐き出す。水中でその酸素は泡となって、人間の目にも見える形で現れる。ふつふつと湧くバブル。ここ最近有名なアクアリウムでも癒やしの存在のひとつです。
ここから先は、図鑑形式で紹介していきましょう。
ミズグモ
レア度 ★★★★★
生息地 北海道、本州、四国、九州
見つけ方 水草が多い池に生息する。
水面下に作った巣へ空気をため込むほか、アクアラング(水中空気ボンベ)として腹部に気泡を纏うことで水中生活を行う。泡を持ち歩いて呼吸に用いるというのは生物界を広く見渡しても珍しい生態である。
タイワン金魚
レア度 ★★★★☆
生息地 東南アジアおよび台湾、中国南部、国内では沖縄に分布
見つけ方 沼やため池など淀んだ水辺に生息する。初夏には水面に泡のゆりかごと親魚が見られることも。
観賞魚として有名なベタなどと同じ闘魚の一種。水面の水生植物の裏に小さな泡のゆりかごを作り、そこへ卵を産む。この理由は二つ。一つは流れが少ない池に生息しているケースが多いため卵が酸欠にならないようにするため。もう一つは、卵を外敵から隠すため。子孫を残すために泡を利用している。
アオガエルの仲間
レア度 ★★☆☆☆
生息地 世界各地
見つけ方 春先に池にせり出した木の枝に注目
モリアオガエルなど樹上棲のカエルの中には水中ではなく水上にせり出した木の上に卵を産みつけるものがいる。卵は親ガエルの体から分泌される粘液と水を練って作られた泡に包まれており、これによって乾燥や気温の急変から保護される。また、木の上ならば孵化して水面に落ちるまでは魚に襲われる心配もない。これも泡を利用して子孫を残す生存戦略だ。
アワフキムシ
レア度 ★☆☆☆☆
生息地 日本全国
見つけ方 春先に草むらを歩くと植物の茎に小さな泡の塊が付着していることがある。その中に幼虫が隠れている。
夏に草むらを歩いていると、1cmほどの小さな虫がピンピンと跳ね回ることがある。それはおそらくアワフキムシの成虫だ。アクティブな成虫時代に反して幼虫の間は泡の中に引きこもる生活を送る。彼らはその名の通り排泄物とお腹から分泌される蝋とを混ぜ合わせて体が隠れるほど大きな泡の塊を作り出す。この泡は捕食者の目を欺くための隠れ蓑、あるいはバリアとして機能する。
カニ
レア度 ★☆☆☆☆
生息地 川、沢、海辺など水辺の近く
見つけ方 種類にもよるが、水辺の近くの石やしげみに隠れていることも
泡を吹く生き物といえば真っ先に思いつくのがカニだろう。あの泡は一体なんの目的で吹き出しているのか? …実は何の目的も意味もない。カニは腹部にあるエラ(いわゆる『ガニ』の部分)で呼吸を行うが、陸に上がる際はエラに水をため込み、そこに溶け込んだ酸素を消費して過ごす。ところがあまり長く乾いた陸上にいるとその水が古くなって酸素は溶け込まなくなり、汚れて粘り気が出てくる。それが泡立ち、口から吹き出すのだ。つまり陸で泡を吹いているカニは呼吸困難に陥りつつあるということ。強いていうならあの泡は「早く水に入りたい!」というSOSのサインだ。
シイラなどの大型魚
レア度 ★★☆☆☆
生息地 海洋
見つけ方 沖に出て釣ってみよう
シイラやカツオ、ロウニンアジなどの大型回遊魚は自ら泡を作り出すのではなく、獲物を捕らえるために泡の輝きを目印として利用する。水中で逃げ惑う小魚が作った泡の軌跡を視認して追い詰めるのだ。カツオの一本釣り漁では寄せエサと共に大量の水を撒いて水面をかき回す。まるでイワシの群れが乱舞しているような飛沫と白い泡のきらめきを見て遠くからカツオが集まってくるのだ。そこを疑似餌で釣り上げる。…こう見ると、やはり泡の使い方が一番うまい生物は人間なのかもしれない。
いかがだっただろうか。ほかにもカタツムリやカマキリも泡を利用するし、イルカはバブルリングを作って人間と一緒に遊ぶこともある。空気を包む泡は生物にとって、密接な関係もあるのかもしれない。
平坂 寛さん
生物ライター。生きものの面白さを一人でも多くの人に伝えたい!と、活動する珍生物ハンター。世界各地で珍生物の生態観察、捕獲、実食する。テレビ、雑誌やWebメディアなど、幅広いジャンルで活躍中。