2012年からドイツ・ベルリンに渡り、アーティストとして本格的に活動をはじめた長尾ヨウさん。その表現の手法はさまざまな形や色を切り取って、新たな命が吹き込まれるコラージュアート。この手法を武器に、どんどんと活躍の場を広げている。作品に込められたメッセージを、彼のインスパイアの源である旅の記録とともに振り返ります。
中世にタイムスリップしたかのような、近未来へ来たかのような不思議な感覚に誘われる
──海外を拠点として活躍される長尾さん。長尾さんが描く世界のコンセプトはありますか。
上の作品はベルリンに渡って2年がたった頃の作品です。人種や性別を問わずシェアできるモノをテーマにしたいという思いを込めました。ファッションに着目して、動物や人間の共生している姿を描いた作品ですね。
青の背景の女性は、「着物っぽい」でしょ。われわれ日本人からすると着物に見えるけど、実際は着物の柄は使っていないんです。だから、西洋人やアジア人から見たら、着物以外の別の何かに見えるかもしれない。「〜ぽい」というのがユニバーサルなんじゃないかな、と思っています。
──この頃、NGO団体のイベントにも参加されたとか。
上の作品ですが、2014年の夏頃には、マンタやジンベイザメなどの海洋生物を保護しているNGO PangeaSeed Foundation主催の『Sea Walls』というイベントで、ニュージーランド出身のアーティストAaron Glassonとコラボして1週間かけて壁画を制作しました。
こういった壁画は誰でもそこに行けば自由に見ることができて、形式にとらわれないところがいいなと思っています。今でも、ここの空き地には観光客がやってきて写真を撮ったりしているようです。
これはベルリンの壁画プロジェクトで、さまざまな国からやってきた移民の家族が多く住むアパートの一角に壁画を書きました。ストリートアートという概念は、もともとさびれているところにアートを施し、楽しめる空間にしようという願いが込められています。日本はもともとがキレイなので、そういう文化は受け入れられないですね。
モチーフはあえて抽象的なものにして、子供たちの想像を刺激するようにしました。
──上の2作品は2014年頃ということですが、年々コンセプトが少しずつ進化しているのですか。
2015年にベルリンで参加したグループ展ではテーマが「ヒート」だったので、自分なりのヒートを表現した2つの作品です。
「ヒート」という言葉は、熱や温度という意味だけでなく、異性に対して動物の本能的な行動をするという意味があるんです。例えば、孔雀が異性にアピールするときに羽を大きく広げたりするでしょ? 健康な孔雀はよりキレイに羽を広げられるため、雌は自然とより健康な雄を選ぶことになる。そうした性淘汰のアプローチを人間だったらどうするのかなと思い、表現したいわば“求愛のダンス”ですね。モノとか言葉を超えた表現で、情熱的なダンスこそが「ヒート」なんじゃないかなと。このあたりから、民族的なテーマを表現したいと思うようになっていきました。
より世界へ、よりその土地の色を求めて旅をはじめる
──そして、そして2016年頃からフィールドワークもはじめられたそうですね。
2016年にメキシコへ渡り3ヵ月間滞在しました。民族をテーマに絵を描いているうちに、Webだけの情報ではなく、現地での本当の情報を知りたいと思って。メキシコってカラフルなイメージがあるでしょ。どうしてカラフルなのか、そのルーツを探る旅をしたいと思って行ってみました。滞在中の最初の1ヵ月はユカタン半島からハリスコ州、メキシコシティ、オアハカ、チアパスなど、南米の文化が色濃く残る地域を旅してまわりました。
メキシコの人たちは、色に対する感受性が高いのか、多様な色を使うことへの躊躇しない姿勢が印象的でした。街全体がカラフルなんですよ。「隣の家がピンクなら、じゃあうちは黄色にしよう」という発想になるらしいんです。
──この作品は今まで長尾さんがベルリンで描いていた作品と色味が違うようですが。
これはメキシコで滞在させていただいたお礼に、現地で撮影した写真をベースにして描いた作品です。現地の美術学校の生徒や関係者に家に余っている絵具を持ってきてください。と言ったら、この色味の絵具が多く集まったんです。その中でもブルー系の色が多かったのですが、もともとメキシコ特にカリブ海側にはミントブルーで塗られた住宅が多く、その理由がなんと「かつて、この色が一番値段が安い時代があった」というのです。
色に対する感受性が本当に豊かなので、彼らの手にかかれば、どんな色でも街やインテリアとマッチングさせることができてしまうんでしょう。
メキシコのこの体験を通して、もっと新しい色の価値観や文化に触れたいと思いその翌年からも色を求めた旅を続けているんです。
後編ではアフリカ南部の先住民族、「ヘレロ族」「ヒンバ族」「デンバ族」に会いに行ったときの話を交えながら、長尾さんにとってのアートの表現について掘り下げていきます。
Written by Mai Ueno
Photos by Kenji Nakata
Trip Phots by Yoh Nagao
長尾ヨウ
愛知県出身。2012年よりドイツ・ベルリンを拠点に活動を開始。 主にファッション雑誌から切り出したコラージュと、アクリル絵具を使った作品を制作。 近年ではLA Art Show, SCOPE Miami Beachに出展し、Juxtapoz magazine, Hi-Fructose magazine, New York Timesにも作品が取り上げられました。国内ではJRA中京競馬場の2015年の年間ビジュアルにイラストが採用され、最近ではBacardi主催のNo Commission Berlinにも出展。2018年には名古屋パルコと春のキャンペーンでコラボするなど、さまざまなシーンで活躍中。