天狼院書店✕MUNSELL - バブルみたいに、はじけて消える。「泡沫(うたかた)の恋」が楽しめる小説3選

2018.11.19

ART

天狼院書店✕MUNSELL

バブルみたいに、はじけて消える。
泡沫うたかたの恋」が楽しめる小説3選

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天狼院書店スタッフの川代です。

書店員のくせに、のっけからこんなことを言ってしまっていいのかと思わないでもないのですが、私は世の中の「恋愛コンテンツ」というものが苦手です。なかでも恋愛小説はとにかく苦手。

映画にしろ本にしろ、男女がくっついたり離れたり→色々あるけど結局くっついてハッピー、という純粋なラブストーリーがだめなのです。

なんだか、こう、気持ちがついていかないのです。もういいよ、早くくっつけよ! みたいな。最後にくっつくのはみんなわかってるからモタモタするな! とさえ思ってしまいます。なんというか、文面だけで進められる恋愛事情を追いきれないのです。

「恋愛小説」が苦手でチャレンジしても途中で飽きて読むのをやめてしまう私ですが、それでも人生で3冊だけ、夢中になって一瞬で読んでしまった小説があります。なぜ、その小説だけは読めたのか? しばらく理由を考えていたのですが、その3冊には、ある共通点があることに最近思い当たりました。

それは、「泡沫の恋」であること。

永遠に幸せが続くわけではなく、その一瞬だけ。一瞬でもいいから、好きな人と一緒にいたい。その恋愛が今だけのものだとわかっているからこそ切ないし、苦しく、感情が揺さぶられる。

バブルのようにはじけて、消えていく恋です。

「泡沫の恋」というものは、どうしてこうも人の心を揺さぶるのでしょうか。

ということで、ラブストーリーが苦手な私でも「めっちゃくちゃ面白かった!!!」と思う小説をご紹介したいと思います。私と同じように「恋愛小説」が苦手だという方もきっと楽しめるだろうと思います!

1、姫野カオルコ「ツ、イ、ラ、ク」

姫野カオルコ「ツ、イ、ラ、ク」

「禁断の恋」系です。先生と恋に落ちてしまうお話。身もふたもない言い方をするとそれだけです。先生と恋をする主人公。主人公を取り巻く周りの人物たちの心の動きも描かれる。それだけ。

けれども、この小説がすごいのは、「先生と恋に落ちる。以上!」というシンプルなストーリーなのに、気が気じゃないほど続きが気になる描き方をされているところです。描写力が素晴らしく、キャラクターたち全員がまるで目の前にいるかのように感じられます。一文一文に魂をこめて書かれているなと感じるほど凄まじい文章力で、圧倒されぐいぐい読んでしまう。読むのをやめられない。

先生との泡沫の恋が、はじけたりふくらんだり、またはじけたり。決して派手なストーリーではないのに、ドキドキが止まらなくなってしまいます。もうこの本全体がフェロモンを放っているんじゃないかと思えるほど、文章そのものから漂う色っぽさ、恋と性の香りが半端じゃなく、濃厚な空気が自分の中になだれ込んできて窒息しそうな気さえします。

2、谷崎潤一郎「痴人の愛」

谷崎潤一郎「痴人の愛」

言わずと知れた名作ですが、谷崎潤一郎といえば「細雪」「春琴抄」が定番で、「痴人の愛」はあまり読んだことがないという方も多いように思います。けれども、私は「痴人の愛」が一番好きです!

主人公の青年はナオミというコケティッシュな魅力にあふれた女の子に振り回されまくるのですが、その振り回し方がとにかくすごい!

女性ならきっと、私もこんなふうに男を振り回せる才能があったらなぁ……と思われるでしょう。とにかくそれくらいすごいのです。容赦ない。気持ちいいくらいにいじめまくり、徹底的に振り回します。

青年は、自由奔放で小悪魔的なナオミにイライラし、葛藤するのですが……。この小説のラストはめちゃくちゃ面白いです! 読み応えがあります。読み終わったときには、はぁ~と力が一気に抜けてしまうだろうと思います。

3、嶽本野ばら「ミシン」

嶽本野ばら「ミシン」

さて、最後はまさに「泡沫の恋」的なストーリーの「ミシン」です。私は高校生のときにこの本と出合ったのですが、あまりの面白さに衝撃を受け、しばらく放心状態になってしまいました。同級生にこの面白さを伝えたかったのですが、あいにく私の周りには読書が好きな友人はおらず、この面白さを一人で噛みしめるしかないもどかしさをよく覚えています。

「ミシン」では女の子が女の子に恋をします。自信がなく、居場所がない少女が、カリスマ・ヴォーカリストに恋をするという。狂信的なほどの恋に、読んでいる方がハラハラしてきて、読むのをどうやっても止められません。

読んでいる途中から、どう頑張っても最後は泡のように消えてしまう恋なんだろうなぁ……というのがわかりつつ読み進める。ああ、辛い。この恋は辛い……。でもやめられない! 最後どうなっちゃうのー!! という感じです。

で、まさにパチン! とはじけて消えるような、衝撃のラスト。全く予想がつかない終わり方で、読み終わったあとめちゃくちゃ情緒不安定になります。どうすればいいのこのモヤモヤした気持ち……というところでページを閉じねばならず、「あああ!! 誰か助けて!!」と悶え苦しむことになると思います。

ということで、この「泡沫の恋」が描かれている濃厚な3冊は、人生で何度も読み返したいほど好きな作品です。ラブストーリーが苦手な人でもきっと、「こんなふうに人を愛してみたい」と思ってしまうのではないかなぁ、と。

パチンとはじける、泡のような恋というと、抵抗がある方もいるかもしれませんが、そのとき限りの恋だからこそ、強く感情が揺さぶられ、「人を好きになること」について、深く考えるきっかけになるのではないかなと思います。

恋愛小説が好きという人も、苦手という人も、どんな人にも楽しんでほしい本たちです。ぜひ、お手にとってみてください。

Photos by Natsumi Yamanaka, Saki Kawashiro
Written by Saki Kawashiro

天狼院書店とは

京都、福岡、南池袋、池袋駅前、2018年4月には「Esola池袋」、さらに「スタジオ天狼院」を加えて全国に6拠点を構える新刊書店。「READING LIFE」をテーマに掲げ、本を読むだけではなく、その内容を「体験」を通してさらに楽しもうと、連日さまざまなイベントを開催している。

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