「意味がわからない」「見た目が変」「シュール」と、戸惑う人もいれば、「先鋭的」「カッコイイ」「感動する」という人もいるなど、人によって見方が大きく分かれる「現代アート」。そもそも「アート」に答えはないので、見る人それぞれが自由に感じ、考えればいいのかもしれません。
では、そんな不思議な現代アート作品だけを集めた展覧会を、テレビバラエティーやドラマで活躍中の團遥香さんがご覧になったら、どんな感想を聞かせてくれるのでしょうか? 品川の住宅街にひっそりと佇む、原美術館を一緒に訪れました。
メイン画像:ミカリーン・トーマス『ママ ブッシュ:母は唯一無二の存在』 2009年 © Mickalene Thomas
プロポーズ翌日の朝のワンシーン? 大きなヌード画の奥に潜む母娘のエピソード
閑静な住宅街に建つ原美術館は、都内屈指の現代アート専門の美術館。原俊夫館長が築いた、世界の最先端の現代アートコレクションが揃います。また、戦前(1938年)に建てられた洋館を改築した建築空間も魅力的。緑溢れる中庭に面したカフェは特に人気で、週末になるとカップルでにぎわいます。團さん、原美術館は初めてですか?
團:はい。こんな場所があるなんて知らなかった。ワクワクします!
今回は、6月3日まで開催されている『現代美術に魅せられて―原俊夫による原美術館コレクション展』から、選りすぐりの作品を、原美術館学芸員の坪内雅美さんの解説つきで見せていただきました。
部屋に入るとカラフルで大きな絵が目に飛び込んできます。最初に見るのは、アメリカの作家、ミカリーン・トーマスの大きな絵画『ママ ブッシュ:母は唯一無二の存在』です。
極彩色の背景に褐色の肌の女性がソファに寝そべってこちらを振り向いています。エナメル塗料のツルツルとした表面にラインストーンをちりばめた、とても派手でキラキラした作品です。
團:すごく大きくてびっくりしました。ゴージャスで力強くて、カラフルでたくましい。ラインストーンが昔の携帯のデコレーションみたいだし、ちょっとアフリカみたいな印象も受けました。
絵に近づいてあれこれ想像を働かせる團さん。
團:私が気になったのはここ(モデルの大きな指輪を指して)。これが婚約指輪だったとしたら、なんとなくプロポーズされた次の日の朝みたいな? ちょっとドヤ顔で、色気がありますよね。
20、30代の若い女性モデルを想像していた團さんですが、じつは作者のお母さんがモデルだと聞いて驚きます。
團:お母さんだったんですね! たしかにタイトルを見ると「ママ」って書いてある。でも、お母さんの裸を描くって、ちょっと複雑……(苦笑)。
作者のミカリーン・トーマスはアフリカ系アメリカ人。自身への悩みを抱えはじめた思春期の頃から、大好きな母親との間に距離が生じてしまっていました。
それが母親をモデルにヌードを描くことで二人のあいだに少しずつ会話が生まれ、微妙な親子関係を乗り越えていったと、この絵にまつわるエピソードを坪内さんが語ってくれます。
團:近くで見るのと遠くから見るのとでは、全然感覚が違いますね。はじめドヤ顔に見えていたんですけど、だんだん自分の娘を受け入れた優しい包容力のある表情にも思えてきました。
また、この見返り裸婦のポーズは、数々の名画に描かれたヌードの定番ですが、自分の母親、中年女性、しかも黒人のヌードを描いた点で、西洋美術史の常識を破った画期的な作品でもある、と坪内さん。
團:自分の苦しみも作品をつくることで乗り越えていって、そして絵画の歴史も更新していく、ちょっとゾクゾクしますね。奥行きがあってずっと見ていられる絵でおもしろいです。
インテリアなのか、アート作品なのか、自分自身の身体なのか……?
同じ部屋の片隅に何の変哲もない椅子とクラシックな電気スタンドが1つ。近づいてみると、椅子の上に丸く映像が写っています。
團:これもアート作品? 椅子に映す作品なんですか?
どう見ればいいのか戸惑う團さん。ただの椅子とランプに見えるのは、スイスの作家、ピピロッティ・リストの『ラップランプ』という作品です。暮らしのなかでインテリアとして使うこともできるいっぽう、ランプシェードのなかに小さなプロジェクターが隠されていて、スイッチを切り替えると、森のなかを映した映像が流れはじめます。
團:草花をイメージしたボタニカル柄がいま流行っているので、親しみが湧きますね。映像が下に映されていて、森を見下ろすっていう感覚も新しい。
じつはこの作品、椅子に座った鑑賞者の身体に映像を投影するのが本来の楽しみ方。今回は学芸員さんのはからいで、特別に椅子に座って鑑賞させてもらえることに。映像が團さんの身体をスクリーンにして映されます。
團:あっ、すごーい! これはPVやMVの撮影に使えそうです! おしゃれ人間になったみたい! 最先端のアートって感じです!
手をかざしたり、スカートを広げたり、團さん大興奮です。これは10年も前の作品ですが、時代を先取りするセンスはさすがピピロッティ・リスト。「女性」をテーマにした作品で世界的に著名なこの作家は、身体に映すことで「映像の体温」が感じられるのではと言っていたそうです。
團:そんなはずないんですけど、たしかに映像の体温を感じます。こんなに自分の間近で作品を楽しめるって、いいですね。
学芸員の坪内さんによると「赤ちゃんを抱いているような感じがした」と表現した鑑賞者もいたそう。自分の身体に映された映像が、次第に大切なものに思えてくるから不思議です。
團:ずっと見ていると、作品が「自分だけのもの」のような感じがしてきます。たとえばカボチャのオブジェで有名な草間彌生さんの展覧会を観に行ったときは、アート作品の空間に飛び込むような感覚だったけど、これは自分自身が作品の一部になって独り占めできる感覚で、とても斬新な体験です!
花の命は短くて……。案内嬢たちのちょっぴり切ないストーリー
次の部屋に移動すると、展示されていたのは同じ構図の大きな2枚の写真。右側の写真は、画面の奥の光に吸い込まれるように延びるエスカレーターと、その両脇のショーウィンドウに赤い制服を着た女性たちが立ち並んでいます。マネキンのように見えるけれどリアルな人間です。
左側の写真では、画面奥の光は闇に代わり、同じ女性たちがエスカレーター内に倒れ込み、ショーウィンドウには値札をつけた切花が飾られています。意味ありげでミステリアスな、一対の写真作品です。
團:右側の写真は美女がいっぱいショーウィンドウに飾られていますけど、どうして? 商品なんですか? そして左側の写真はショーウィンドウにお花が飾ってあって、美女が倒れている。どういうことなんだろう?
タイトルは『案内嬢の部屋(1F)』。デパートの案内嬢やエレベーターガールをモチーフにした作品です。ショーウィンドウに並んだ若い女性と切り花は、同じような意味を持つという解説を受けた團さん。切り花のイメージを聞かれると……。
團:ちょっと嫌な言い方かもしれませんが、使い捨てというか、やがて枯れてしまうというイメージがあります。
そう。切り花の限りある生命のように、この若い女性たちの美しさもやがて失われてしまう。作家のやなぎみわさんがこの作品をつくった1990年代後半、やなぎさんは新進の若手女性アーティストとして注目の的でした。はかなくて無個性なエレベーターガールに自身の居心地の悪さを重ねていたのかもしれません。
團:いま20代の私が聞くと、かなりゾッとする作品ですね。女性だからこそつくれた作品だと思います。最初観たときは、2枚の明暗のコントラストはメリハリをつけるための演出なのかなって思ったんですけど、意味を聞いてみると、ガチで怖かった……!
新鮮な驚きを素直な言葉でコメントしてくれる團さんとの楽しい現代アートめぐりはまだまだ続きます。後編では、あの有名アーティストの作品も!
Written by Chiaki Sakaguchi
Edited by Kenta Kimura, Reino Aoyagi (CINRA. inc)
Photos by Hiroaki Sagara
團遥香
http://www.box-corporation.com/haruka_dan
女優、タレント。日本テレビ系朝の情報番組『ZIP!』にレポーターとしてレギュラー出演。そのほか、バラエティ番組やCMなど、幅広く活躍している。